概要

北海道主要樹木図譜 概要

原著は大正2年(1913年)、北海道庁が東北帝国大学農科大学(現北海道大学)宮部金吾教授、同樹教授工藤祐舜を嘱託に任命し、主として北海道を中心とする北日本の樹木についての解説と図譜の作成を委託したもので、道庁技手須崎忠助の精緻な写生によるカラー石版画を添えて、大正9年(1920年)から昭和6年(1931年)までに85樹種の詳細を記述して発行された世界的にも価値のある図鑑です。

背景には北海道の開拓がすすみ、住宅建築や鉄道敷設、製紙・家具製造・製材輸出などさまざまな分野でその重要性が認識されつつあった林業への啓蒙や教育の役割があったと考えられます。

もともと1冊のまとまった著作物として刊行されたものではなく、和文・英文の詳細な解説と1樹種につき1枚の図版を3~4樹種分ひと組みにして、約12年もの長い歳月の間に28回に分けて頒布購入者へ郵送する形式を採用しており、当時は高価な図鑑類の発行にはよくみられる方法でした。

プリントされた石版画(リトグラフ)は、1図版につき300枚を超えると印刷精度が劣化する石版画印刷の常識からすれば発行枚数は上限が300枚程度、つまり『北海道主要樹木図譜』全体の発行部数もまた300部程度ではなかったか、と推測されています。

また石版画のもととなった原画の一部が近年になって確認されたとの報告はありますが、当時印刷を担当した東京神田の三秀舎の社屋が関東大震災(大正12年)と東京大空襲(昭和19年)によって壊滅的な被害をうけ、印刷機ををふくめすべて焼失。さらには関連史料もほとんど残されていない環境にあります。

一方、植物学者、林業関係者、大学や研究機関へ12年間にわたり郵送された印刷物類は散逸しないような保管が求められていたものの、なかには一部を紛失してしまう事態も多々あったと想像され、欠落のない完全な状態で残っているものは少なく、現在わたしたちが目にすることができるものは主として道内の大学図書館や自治体図書館などに所蔵されている製本例に限られています。

このサイトでは北海道内においてさえ、あまり目にすることができない『北海道主要樹木図譜』の美しい図版を中心に、当サイトが知りえた情報をまじえてご紹介してゆきます。